pua nānā lā

おひさまのような花

◇「真夏の夜の花」考察

 

“真夏の夜の花の

「違うんだ、そうじゃない」って

結局一体何が違うんだろう”

 

とあるフォロワーさんのこの一言が

なんだかとっても胸に引っかかった。

そして思った。それな、と。

 

真夏の夜の花」と言えば、PLAYZONEが生み出した名曲。しっとりとした曲調ながらダンサブルなアレンジが効いた「踊れるバラード」の鉄板で、公演では振付助手としても活躍する屋良朝幸と通称「窓系列」と呼ばれる大人のジャニーズJr.、ふぉ~ゆ~・They武道・M.A.Dが圧巻の表現力で魅せる、知る人ぞ知る人気ナンバー。余談だが、私もPZのオリジナル曲の中ではこの曲が一番好きだ。シャッフルでこの曲がかかると必ず1回はリピートするし、映像も多分一番回数見てる(※担当不在)。だから、青山劇場でのラスト公演でセットリストにこの曲が入っているのを知った時にはかなり嬉しかったのを覚えている。

 

さて、この曲の歌詞だが、何と言ってもドラマチックだ。公演では出演者の切ない表情も想像力を掻き立て、一曲終わるとまるで映画を一本観たかのような気分になった。言葉選びも美しく、タイトルにぴったりのつややかな世界観に引き込まれるが、確かに冷静に見ると気になる点は多々ある。通して聴けばストーリーはそれなりに掴めたように感じられるのだが、いざ説明しろと言われると意味わからんからできまっせーんだ。そこで、以下にこの曲の歌詞に描かれたストーリーについて勝手な解釈を含めて考察していきたいと思う。

 

◆◆◆

 

「誰か まだ待ってるの?」

「風が少し変わったね・・・」

「違うんだ、そうじゃない」

 

…会話が全く成り立っていない。まず、どのかっこが誰の台詞かもわからない。ここでは仮に登場人物が男女一名ずつであると想定しよう。第一印象では言葉遣いなどから見て順番に女、女、男あるいは男、女、男だろうか?

 

「月明かりが青いなら」

「こんな夜、君にあげる」

「見てごらんよ、ねぇ」

 

…さらに謎は深まる。ここまでの台詞とも繋がる気配がまるでない。しかし、後に「僕は君を離さない」という歌詞が出てくることを踏まえると、二人称「君」を使うのは一人称「僕」であると考えるのが適切と考えられる。最初のかっこは「…なら」で終わっているが、一度かっこが閉じられることで後に続く「こんな夜、君にあげる」「見てごらんよ、ねぇ」とは繋がっているようないないような微妙な距離感が生まれている。改行のバランスなどの体裁を整えるためあえてばらされているが、同じ人物の台詞なのだろうか。歌詞はBメロへ続く。

 

La La La・・・

聞こえてるよね

La La La・・・

美しい人

(I'll see you in the moonlight)

 

…「僕」の台詞と捉える。聞こえてるよね?と問いかけるということは、つまりここまでの間「僕」と「君」の間で会話は成立していない。少なくとも「僕」に「君」の声は届いておらず、その上で彼は問いかけているのだということがわかる。そして、後に繰り返されるキーワード、 “ I'll see you in the moonlight"。「僕」は、月明かりの下で「君」に会えると知っているのだ

 

I see you, I see you, I see you

朝が来るまで

I see you, I see you, I see you

そばにいるから

 

…“ I'll see you ”のリフレインは“ I'll see you in the moonlight”から派生しているものと思われる。繰り返すことで、祈りの声が響くような風情を醸し出している。それに挟まれたメッセージは、「朝が来るまで そばにいるから」。逆に言えば、朝が来たら二人は離ればなれになるのだろうか?それはなぜなのか。

 

「君はいつもそうしてるの?」

「そんな眼で見つめないで・・・」

「時計は捨てようか」

 

…男、女、男。あるいはすべて男の台詞だろうか。ここまで二人の関係性はそれなりに親密なものであることを予想していたが、「君はいつもそうしてるの?」という問いかけから伺う限り「僕」は「君」のことをたいして良く知っているわけでもなさそうである。しかし、「月明かりの下、朝が来るまでの逢瀬」というシチュエーションと「時計は捨てようか」という台詞を合わせて考えると、やはり二人はお互いに恋をしていて、どういうわけか朝が来たら別れなければならない状況の中で限られた時間を共に過ごしている、というような状況のように思える。歌詞は続く。

 

「誰にも知られたくないから」

「君の香り、美しい」

「もう隠さなくていい」

 

La La La・・・

聞こえてるよね

La La La・・・

美しい人

(I'll see you in the moonlight)

 

…ここまでの流れを踏まえると、やはりこの歌詞は「僕」と「君」のやりとりではなく、一貫して「僕」の台詞(あるいは心の声)なのだろう。だとすると、あまりに一方通行で、前述のように「お互い恋している」と考えるのは難しい。この男は夜中になんの返答もない何かに向かって口説き文句のような言葉を投げかけ続け、しまいには「違うんだ、そうじゃない」と謎の言い訳までしているのか。怖い。警察呼びますよ。しかし一方で、その相手は「存在さえしない」というわけではなさそうだ。「君はいつもそうしてるの?」という問いかけや「美しい人」という表現から察するに、可視的なものであることは間違いなさそうである。美人をナンパして、フルシカトされてるのに「そんな眼で見つめないで…」などとほざいて大勘違いしているイタいナルシスト男の歌なのだろうか…そんなのヤダ……

 

I see you, I see you, I see you

朝が来るまで

I see you, I see you, I see you

花を咲かせて

 

…ここで初めて「花」というワードがでてくる。考察は次のRAP部分踏まえて行う。

 

始まりは月明かりの中

咲いた君に振り向いた真夜中

はかなげな瞳に、その香りに

愛してしまった、一思いに

 

一夜の恋だと知る由もなく

身勝手な夢を止めることもなく

君のすべてを奪い去った

そう、誰にも知られず

 

美しく咲いた花のように

僕だけのものに落ちるように

変わらない かざらない

二度と変わる事のない

言葉なんか必要ない

僕は君を離さない

 

…この部分はこれまでと同様に問いかけるような口調でありながら、内容としては説明的で独白めいている。

「君」との始まりの日の事を思い出す「僕」。「咲いた君」や「その香り」という比喩から、この曲における「君」は花を擬人化した対象なのだと考えられる。しかし、いくら擬人化して表現しているとは言え、「美しく咲いた花のように」という直喩は実際の花の美しさを愛でる言葉としては不自然である。さらに、「はかなげな瞳」や「そんな眼で見つめないで…」という具体的な体の部位を指す表現からも、「僕」の目に映る「君」はやはり人の形をしていて、そしておそらく美しい女性なのだろうと考えられる。

また、現在の「僕」は「月明かりの下で(in the moonlight)」「朝が来るまで」しか「君」といられないことを知っているが、回想の中では「一夜の恋だと知る由もなく」と言っている。つまり、初めて会った時「僕」は「君」の正体を知らないまま「一思いに愛してしまった」が、今は彼女の秘密を知っている。そして、その事実を受け止めた上で最終的には、「言葉なんか必要ない 僕は君を離さない」とこれからも彼女を愛していく決意をするのだ。

 

◆◆◆

 

真夏の夜、月明かりの下で咲く花とは…?

 

ここまでで、大分おおまかなストーリーは見えてきた。真夏の夜の月明かりの下佇む、花のように芳しく美しい人。そんな彼女に魅かれた男。男は恋に落ち、夢中になり、彼女を自分のものにしようとした。しかし、その後で彼は彼女の本来の姿を知る。儚げで可憐なその姿に隠された秘密を知った上で、それでも彼は彼女を愛し続けることを決め、返事のないことを知りながら愛しむように彼女に語りかける。

 

では、「君」の隠された秘密、本来の姿とは一体どんなものなのだろうか?

 

月下美人」という花がある。

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サボテンの仲間で、真夏の夜に純白の大きな花を咲かせる。花言葉は「儚い恋」「儚い美」「繊細」「快楽そして「つややかな美人」。豊かな芳香が特徴で、日が落ちてきた頃、香りでこの花が咲いているのに気付くことがあるという。初夏~秋口にかけて満月の夜にだけ咲くと言われ、時には何年も種のままで過ごしたのち、雨水のしずくを受けて一斉に開花する砂漠の花の遺伝子を受け継いでいる。美しい花は、朝がくるとあっという間にしぼみ、そしてその間めしべに他家受粉が起きなければそのまま散ってしまう

 

あまりにも、「真夏の夜の花」における「君」の姿に重なるものがないだろうか。

 

仮にこの花をモチーフにして曲のストーリーが展開していると考えると、色々な点で合点がいく。

例えば、真夏の夜の空気に少しだけ秋めいた匂いを感じて「僕」は思わず「風が少し変わったね」と口にする。しかし、秋が来れば次はいつ咲けるかもわからない「君」はそれを聞いて悲しげな表情を浮かべる。だから、「僕」は咄嗟に「違うんだ、そうじゃない」と弁解したのではないだろうか。

また、仮にこの花が咲いたのは「僕」に会った日が初めてではないとすると、朝が来ても散ることなくこうしてまた咲いているということは以前にも愛し合った誰かがいたのだろうとわかる。「僕」はそれを察していて、物思いに耽る彼女の様子を見て「誰かまだ待ってるの?」尋ねたのかもしれない。芳しい香りも白く美しい姿も、そしてその花言葉も、あらゆる点においてこの花は「君」のイメージにぴったりマッチするのだ。

 

儚くも美しい「月下美人」。

真夏の夜に「僕」と出会い、魅かれ愛し合い、

だからこそ彼女はまた咲くことができる。

そして彼は月明かりの下、彼女を決して離さず、

二度と変わらず愛し続けると誓う。

…たとえそれが、ごく限られた時間であっても。

 

 I see you, I see you, I see you

 次の月夜も

 I see you, I see you, I see you

 君を離さない

 

二人の運命は切ないが、

彼が彼女を愛し続ける限り、きっと二人はまた逢える。

 

真夏の夜の月明かりの下の、ある純愛の物語である。

 

「真夏の夜の花」

作詞:拓井 賢

作曲:Ellie Wyatt / Phillipa Alexander / Paul Drew / Greig Watts / Pete