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おひさまのような花

『ドリアン・グレイの肖像』…(5)

【James Vane -仲田拡輝-】

 

今作への出演が発表された時から、本当に心待ちにしていた。

彼の演じるJames Vaneに会える日を。

 

彼の出演決定を動機として本公演のチケットを取り、原作小説を購入し、何度も追読しては期待に胸を膨らませた私にとって、幕が開く前から『ドリアン・グレイの肖像』の主人公はジムだった。初読の際に中盤ではじめてシヴィルの弟として出てきた彼の名前を見たときには「やっと会えたね…!」と勝手に待ち人来る喜びを感じ、公演の観劇においても正直初日はシーンが途切れるたびに「で、ジムはいつ…?」と舞台袖を覗きそうになる気持ちを必死で抑えていた。

 

そして待ちわびた瞬間、舞台に現れたジムは、私の想像そのものだった。身体の大きさこそ「屈強な船乗り」であるジムにしては少しばかり小柄だが、姉を思う気持ちの大きさは原作に負けずとも劣らず、少年らしいあどけない情熱を復讐の炎に変えて宿したその瞳は、ドリアンだけでなく観る者を緊迫させた。出演時間はメインキャストの中で最も短くはあったが、今作において非常に大きな役割を果たしていたことは間違いないだろう。以下からいくつかの記事に分けて、各出演シーンといくつかのポイントに関する個人的な感想を述べたい。

 

「ロンドンで過ごす最後の一日」

 

この場面で、シヴィルの芝居をしているときとも愛するドリアンと言葉を交わすときとも異なるのびのびとした天真爛漫な魅力を引き出したのは、彼女を見つめるジムの優しい眼差しだったのではないだろうか。姉にできた「新しい友達」を巡って彼のことを不審に思うジムと、その愛の幸せな結末を信じて疑わないシヴィル。ふたりは口論になるが、両者とも根底にあるのはお互いのことを大切に思い、幸せを祈る気持ちである。それが十分に表現されていたシーンであった。

 

特にシヴィルが彼の旅先での展望について語る場面では、まだ大人とも呼べない歳であるにも拘らず異国へ出稼ぎに行く弟を不安にさせぬよう別れの悲しみを堪えて明るく勇気づけようとする姉と、そんな姉に心配をかけぬよう寂しさを覗かせつつも笑顔で応えるけなげなジムのやりとりが、切なくも温かい余韻を胸に残した。

惚れた欲目、と言われればそれまでだが、拡輝くんは瞳で芝居をする俳優だと思う。「ロンドンは今日が最後なんだ」というジムの、旅立ちの覚悟ともう二度と会えないかもしれない姉の姿を一秒でも長く映していたい・心に焼き付けておきたいという切実さ、それらを潜ませた上で残された時間を愛おしむようにやわらかに凪いだ瞳は、見つめる程海のように深く、涙を誘うシーンであった。

 

シヴィルを演じた舞羽さんが千秋楽後に投稿した、弟役の拡輝くんの今後を応援するツイートに引用された、「あなたは新しい世界へ旅立ち、…あたしは新しい世界を見つけた!」という台詞は、この場面のものである。物語上でこの場面のあと二人を待ち受けているのは悲劇的な結末だが、現実では二人のそれぞれの未来を明るい光が照らし、いつかまた舞台上で再会を果たしてくれる日が来るのを祈らずにはいられない。

 

 

 

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