pua nānā lā

おひさまのような花

◆もしも伊勢三郎が岸優太だったら。

 ※歴史的事実ではなく義経物語、
 特に2013年の滝沢演舞城に着想を得て執筆しています。

 

二幕、義経一行の物語は三郎役・岸優太のナレーションから始まる。

 

すべてはここから始まった!
百姓だったこの三郎が親方様に付き従い天下取りの夢を見ることができたのも…
すべてはこの五条大橋の出会いから始まった!

 

できる、想像できる。岸くんが目をきらっきらさせてこの台詞言うの!!
ちょんまげ前髪にして、あの黄色っぽい小袖に袴姿で……

彼らが後にどのような運命をたどるのか、歴史の一つとして既に知っている私たちにとって「夢を見ることができた」という表現は切なく響くけれど、ここでは輝く三郎の瞳と同じまなざしで、義経の登場とやがてくる新しい世界を期待に胸を膨らませながら見つめていたい。

 


五条での出会いをきっかけに、義経の郎党となった弁慶と三郎。京の町は三人のたのしい日々と三郎の愛すべき人柄がよく表れる場面だ。2013年の演舞城では、滝沢座長と京本政樹氏に挟まれてやれ顔がでかいだの清水ミチコだのといじられながらも嬉しそうな深澤くんがなんだか幼く見えて、それがかわいくて…。滝沢歌舞伎・演舞城においてはそれまで(限られた出演者からのキャスティングということもあり)義経・弁慶・三郎はほぼ同年代の俳優で演じられてきたが、これを見て、やっぱり弁慶>義経>三郎という年齢のバランスいいなぁ、しっくりくるなぁと思ったのだ。

さて、末っ子ポジションなら、岸くんも得意に違いない。くだけた敬語と臆さない態度、そして無邪気なほどに懐っこくあどけない笑顔でいとも簡単に先輩の懐に入ってみせるあの様子を見ていれば、容易に想像ができるだろう。
……そして、やっぱり。彼が三郎をやるなら、義経役は光一くんしかいないんじゃないだろうか?彼に対する岸くんの純真無垢な憧れや尊敬は、三郎の義経に対するそれに似ている。それに、SHOCKでの初めての地方長期滞在中、部屋を訪ねた座長が去ろうとするのを半ば泣きそうになりながら引き留めたというエピソードなんか聞いてしまうともう……。愛おしさがこみ上げると同時に、「おやかたさまぁ」と光一義経にしっぽを振る優太三郎が頭に浮かんでしまってどうしようもないではないか。どうせ架空の話だ、贅沢すぎるくらいがちょうどいい。

とすると、悩むのが弁慶だ。どうしてもSHOCK色(語呂がいい)が強くなってしまうが、真っ先に思い浮かんだのは屋良くんだった。かたやライバル同士・かたや主人と家来いう間柄ではあっても、元は好敵手であり根本にはお互いへの厚い信頼があるという上では、コウイチとヤラの関係性は義経と弁慶のそれに近いものがある。それこそ、あの夢幻での阿吽の呼吸のパフォーマンス…想像しただけでいい義経と弁慶を演じてくれそうだ。
しかし、この二人では残念ながら前述の弁慶>義経>三郎という構図にはあてはまらない。やはり、せっかく三郎をうんと若い岸くんにするのであれば、一方の弁慶はやはり義経よりも年長者に配役して、三郎の義経に対するあどけない憧れと一回りも年下の義経を認め敬い身を挺して守ろうする弁慶の想いの対比を見たいところだ。
では、植草さんではどうだろう。SHOCKでは父のようにカンパニーを見守るオーナー、本作では天下の大天狗と呼ばれた後白河役のイメージが強いが、あのベテランならではの圧倒的な迫力と優しげなまなざしににじみ出る余裕、そして光一くんとの長い年月を経た信頼関係……。アドリブシーンではコメディーリリーフとして場を和ませたり、なんだか激しさよりも暖かさを感じさせる新しい魅力の弁慶になりそうだ。それにしても「弁慶、お前も大人になったなぁ~」って生意気に植草さんの肩を叩く子ザルのような岸くん…。だめだ、かわいい。

しかし、こんな楽しい日々も長くは続かない。義経と頼朝の仲は景時の讒言も影響して悪化する一方、誤解は解けぬままついに義経討伐の院宣が下り、一行は朝敵として追われる立場になり最期の地平泉へ下ることに。この道中にあるのが歌舞伎十八番で有名なあの「勧進帳」の一場面で、このことで弁慶と義経の主従の絆に改めて感動した三郎は改めて良き主人を持ったことを喜び、いつにない真剣な様子で「自分はこんなに良い主人に恵まれたのだから)あとは良き家来となることか…!」とつぶやく。やめて、そんな死亡フラグは立てなくていいのよ…!と言いたくなる我々の心配をよそに命を捧げる覚悟を固めた三郎に、義経は神妙な面持ちで自らの短刀を授ける。壊れ物のように慎重に受け取り、大切に懐にしまう三郎……。それにしても本当に、台詞や動作のひとつひとつが驚くほど違和感なく、あれ2~3回見たことあったけ?と思うくらい岸くんで再生できてしまうから不思議だ。

 

その後、いよいよ鎌倉軍の追手が迫り、三人は最期の戦いに向かう。

 

別れの時と知った義経が三郎と弁慶に感謝の言葉を伝える場面。

弁慶、三郎、
こうして最後の最後まで付き従うてくれたこと、有り難く思っているぞ。
五条での出会い、昨日のことのようだ。

時折目を閉じ、これまでの日々を回想し噛みしめるように静かに語る義経

三郎、お前のおかげで明るい旅をすることができた。
苦しくも辛い時にあっても、お前にはずいぶんと助けられた。

コウちゃんがユウタにこんなこと言うの、涙なくして見られる人います…?(SHOCK色)

ちなみに弁慶に向けた、

弁慶、お前には苦労をかけた…!様々なこと、よく耐えてくれた。
…弁慶無くして、この義経は無かった!
再び相まみえる折には、我らが旅きっと続けようぞ。

という台詞もものすごくいい。「オーナーのおかげで…」(号泣)

 

そして、ついに三人は散り散りに……。

この別れの後、弁慶と三郎・義経と弁慶は戦火の下でそれぞれ一度再会するが、義経と三郎が生きて会えることはもうない。それを知っているとまた何倍も泣けてしまい、このあたりからはもう瞳にワイパーがほしいくらいひたすら涙が止まらない。

複数の鎌倉軍に追われ、「やっぱり怖いよ~」と言いながらその身軽さでひらりひらりと攻撃をかわす三郎。このあたりも子猿のように身のこなしの軽い岸くんならうまくやりそうだが、これが単なる臆病からではないことは後にわかる。ここではたまたま現れた弁慶に助けられるが、再び戦場に向かう覚悟を背負ったその背中は儚げながらも頼もしく、彼の時間が残り少ないことを知りながらもどうか無事でと祈らずにいられない。


いよいよ三郎の最期。


再び鎌倉軍に迫られ四面楚歌の窮地で、2008年の戸塚三郎は「殿からもらった刀でてめーらのことを切って切って切りまくってやる!」と言わんばかりに決死の奮闘を見せたが、2013年の深澤三郎は違った。心を決めたように短刀を手にするけどそれを抜くことはせず、握りしめたまま…

 

お前らなんかに使えるかーーーー!!!

 

身体一つで敵陣に飛び込んでいくのだ。
まだ…まだ終わんねぇ!!と力を振り絞って素手で戦おうとするが複数の軍勢に敵うはずもなく、四方から攻撃を受けた末に最期は鎌倉軍の悪党半蔵に切られ、息絶えていく…。
その手に握られた刀を血で汚すことを嫌ったのは、殿からもらった宝物を敵に使いたくなかったという理由だけではないだろう。義経は元来無駄な争いを好まなかった。鎌倉の軍勢に囲まれた際に「狙うは景時のみ」として他の者は引くようにと指示したのを見ていた三郎は、義経のこの信念を裏切ることができなかったのだろう。…例え自らの命を投げ打っても。

夢だった…。ずっと夢を見てきた…。
親方様、この三郎、また旅のお供がしとうございます。
弁慶、親方様のこと、頼んだぞ……。

……………義経様ぁーーーー!!


振り絞った最期の言葉は、きっと届いたに違いない。


夢見た世界は潰えるが、三人はきっとまたどこかで巡り会い新たな旅を始めるだろう。

 

◆◆◆

 

義経を題材にした作品が好きだ。


安部龍太郎の「天馬翔ける」は何度も読んだし、滝沢秀明主演の大河ドラマ義経」も毎週欠かさず見ていた。そんな私が、今までで一番泣いた義経作品が「滝沢演舞城2013」だった。これまでの義経作品が主に描いてきた日本が生まれ変わる触媒の役目を果たした義経の英雄性やその鮮烈で悲劇的な運命よりも「主従の絆の強さと美しさ」に焦点を当てる中で、主要な登場人物をあえて義経と彼を深く慕う二人の郎党、そして頼朝・景時をはじめとした鎌倉方の数名というシンプルなキャラクターの配置としたことで、三人の信頼関係やそれぞれの想いを丁寧に書き込み主題を明快にすることに成功していた。

ベテランらしい迫力と父のような優しさで義経軍における弁慶の役割のごとくカンパニーを支えた京本政樹氏と共に、義経に最期の時まで付き従う者の一人として感動を誘ったのが、Snow manの深澤辰哉くんが演じた伊勢三郎だ。正直、この年の演舞城で私が流した涙の8割は、この三郎のためのものだった。それ以降の滝沢歌舞伎を観劇していないことも少なからず影響しているが、毎年桜の季節が近づくとあの年の演舞城と彼の演じた三郎のことを思い出す。

 

今回は3年前に愛おしいとさえ感じたこの役を個人的に適役だと感じている岸優太で再生してみた。今まさに絶賛公演期間中のSHOCK色(しつこい)を添えて…。なぜ岸くんを適役だと感じたのかというと、ガムシャラ!でただひとりドジョウやザリガニをためらいなく鷲掴みにしていた野性的な一面(笑)やSHOCKにおけるジャパネスク屋良軍での衣装・殺陣の形がなんとなく三郎のそれに重なったからというのもあるし、何より2013年三郎を演じた深澤くんの立ち位置やキャラクターと岸くんがなんとなく似ているというか、その場所に彼が入ることをとてもリアルに想像できたからというのが大きい。

 

それにしても、個人的に大好きな二つのジャニーズ演劇作品のコラボレーション、完全に自己満足だが考えているだけで興奮した。もちろん私の中にも義経と言えば滝沢くん!という大前提はあるのだが、容姿端麗で所作美しく殺陣のキレも抜群な光一くん、絶対素敵な義経になるよね…。特に滝沢歌舞伎(演舞城)二幕の脚本は彼の最期の数年を描いている比率が高いから、年齢的にもちょうどいい。それにSHOCKのキャストが徐々に変わっていて、もしかしたら岸くんはもうユウタやらないのかもしれないなぁ…と少々センチメンタルに一年前を懐かしんでる頃でもあったので、コウちゃんとの絡みを久しぶりに見たいという気持ちもこの記事を書きたい衝動を掻き立てたように思う。

 

前述のように、私は岸くんと深澤くんにどこか似た魅力がある気がしている。屈託のない笑顔には愛嬌があり周囲を笑わせるコミカルさも持っているが、なんとなく掴みどころがなく、無邪気なほど懐っこく誰にでも開放的なように見えて、真剣に自分のことを語るのを意識的に避けている節がある。そして、芝居を始めた途端醸し出す独特の透明感とふっと消えてしまいそうな儚さ。ふわふわとしてどうにか捕まえておこうにもそうできないような何か。そういう人に私はどういうわけか感情を揺さぶられ惹かれてしまうんだなぁと、記事を書いていて改めて感じた。気を付けよう…。

 


次の桜が咲くころ京都に行く。
三人が出逢った日もちょうどこんなだっただろうかと、その景色に浸るのが楽しみだ。

 

end.